特集・コラム

木津川PORT

京都府木津川市

木津川PORTは、京都府木津川市内の木津川沿いに位置するMDプレス工業株式会社内部に設置されたコワーキングスペースです。ものづくりを行う金属プレス会社の2階に位置しているという点が非常に珍しいですよね。今回のインタビューでは、木津川PORT創業の経緯や、コワーキングスペースとしての魅力などを代表取締役社長の川端政子様に伺いました。

- まずは木津川PORTを創業された経緯を教えてください。

川端 私は金属加工会社にパート事務員で20歳の時に入社しました。今から26年前の話です。最終的には営業所長にまでなりました。その会社で初めて新卒の女性として入ったのが私だったんです。考え方が古い業界なので、女性視点で革新的なことを少しずつしていった中で会社で認められ、24歳の時に会社史上初の女性役職者になりました。役職者になった時に、「10年かけてより良い会社にして、その後は同じように困っている中小企業の役に立つようなことをしたい」と思い、35歳で起業すると決めました。34歳で東京営業所長として東京に赴任して、1年かけて営業マンとして日本全国を回っている中で、「教育」と「連携」という2つのテーマで会社を設立しようという構想が沸き上がってきました。

そして、35歳の時にMDファクトリーHS株式会社を設立します。営業マンの時に思っていた「地方には面白いものづくり企業がたくさんあるけれども、よく知られていない」という課題を解決するために、地方にある面白いものづくり企業が、リアルな情報を発信できる情報発信基地を各地に作ろうと決めました。それが最終的に木津川PORT設立に繋がってきたわけです。

会社設立の翌年は東日本大震災が起こった年だったので、困っている中小企業の手助けをしたいと思い、地域を超えた起業連携のための組織である「モノヅクリンクネット」という異業種連携団体を設立しました。「モノヅクリンクネット」ではものづくり企業同士の絆を作るための交流ワークショップイベントを、年に3回ずつ10年ほどやってきました。

その後、「モノヅクリンクネット」などの実績もあって行政からお声が掛かり、墨田区にある国際ファッションセンタークリエイティブスタジオのインキュベーションマネージャーとして抜擢されました。私自身はそれまで創業支援をしたことがなかったのですが、国際ファッションセンターは創業支援を行う施設でした。私のミッションは「何をしても良い代わりに、最終的に墨田区の企業として根ざして成長していく企業を生み出す」ということでした。定期的に入居者同士の定例会議を実施し、プレゼンし合う場を作ったり、ビジネス発展につながるような場づくりを進めたりしていました。これらの活動を経て、実際に成果が出て新しいビジネスモデルが生まれたり、ビジネス発展の支援ができました。「創業支援って面白いな」とこの時の活動を通じて思ったんです。

墨田区国際ファッションセンターの入居者として3年経過し、そこを出なければならなくなり、新しいオフィスを探すことになりました。そこで「せっかく新しいオフィスに移転するなら、民間で交流できるスペースがついたオフィスを作りたい」と思い、木津川PORTに繋がる「両国PORT」というオフィス兼共用スペースを立ち上げました。初めてのPORT設立でした。

実は、木津川PORTを運営しているMDプレス工業株式会社の社長になったのは、3年半前のことです。プレス会社の出身ではありますが、プレス会社の社長になる気はありませんでした。「コンサルタントの立場で良いので、プレス会社の社長になってくれないか」というお声が掛かり、社長になったんです。当時は大阪で経営している小さな家族経営のプレス工場でした。全然儲かってもいない会社で、当時の社員のモチベーションも低かったのですが、「どうせ社長をやるなら、良い会社にしよう」と決めました。

元々私が新卒で入社したプレス会社は、ある電気メーカー(Aとする)の一次下請けの会社でした。MDプレス工業の社長になった当時、Aが富山県に所有している小谷部工場のプレス事業を撤退することになり、機械設備を無償借用する条件付きで、仕事ごと引き受けてくれる事業者を探していたんです。その時に、新卒入社したプレス会社で働いていた時のご縁で、「川端社長にぜひプレス事業を頼みたい」というお話をいただきました。当時は大阪の30坪しかない工場を使っていましたが、「200坪ないと無理」という話だったので、いったんは「無理です」とお断りしたんです。でも社員に「これはチャンスなので、200坪以上の工場に移転して仕事を引き受けましょう。工場は探しますから」と言われたので、社員に工場を探してもらった結果、偶然300坪の敷地がある木津川工場を見つけて仕事を引き受けられることになりました。

せっかく木津川に移転できたので、「地域に根ざした面白い場所を作りたい」という思いがありました。しかし、2018年12月に過去最高益を達成した矢先、2019年1月7日に、元々の親会社が倒産してしまったんです。連鎖倒産になる可能性が高いので、会社を続けたいかどうかを社員に聞くことになりました。翌日に、「ここまで来たら全力でやりましょう」と社員に言ってもらえたんです。また、大手取引先の社長が「緊急事態だから直取引契約を結びます」とおっしゃっていただき、大手取引先さん以外のみなさんも直取引に切り替えてくださいました。社員とも会社の未来について話し合いを重ね、周囲の方々の協力や、自主努力の結果、MDプレス工業は企業としてなんとか存続することができました。

そこで、「今後も存続し続けていける企業になるために、より地域に根ざした活動をして、応援してもらえる企業になろう」ということで、ワークショップや、マルシェなどを実施するようになりました。活動を始めた矢先にコロナ禍になったのですが、うちの会社にとっては、融資などを受けられたことで結果的には追い風となりました。融資してもらった金額のうちの3分の1は地域のために貢献できる活動に使おうと決めたんです。元々オフィスの2階が使われていなかったので、まず2階にある食堂をリノベーションしようと決めました。「でも、どうせ作るんだったら、以前から作ろうと考えていたものづくり企業の情報発信基地も一緒に作ろう」と考え、2階の約1/4(120m3)リノベーションして木津川PORTを創業することになった、という経緯です。

― 木津川PORTの特徴について教えてください。

川端 ものづくり企業であるMDプレス工業の2階に位置していて、簡単にオリジナルTシャツやバッグを作れる布専用プリンターを設置しているなど、ものづくりに対する興味や関心を引き出しやすい環境があります。だからものづくりに興味がある人に来ていただきたいですね。ものづくりのワークショップなども実施していきます。実際に、以前実施したワークショップに来ていただいた方の中には、現在うちの社員になって、木津川PORTのイベント運営を担ってもらっている方もいます。

周囲に作業ができる場所がないので、ちょっとした仕事をする場所としても気軽に使っていただきたいです。のどかな環境でリラックスして作業ができますよ。地域の方々のコミュニケーションハブにしていきたいと思っていますので、木津川市の方に積極的に使っていただきたいです。イベントスペースとしても気軽に使えます。

小さな子供連れの方も利用してもらえることをイメージしているので、子供向けの小上がりスペースも用意しています。絵本なども充実していますので、絵本を読んで暇つぶしもできます。ぜひ子連れのママさん達にも来ていただきたいです。授乳スペースを一時的にお貸しすることもできます。うちの会社でも子連れで出勤している女性社員が何人もいますよ。子供たちに来てもらって、「中小企業のものづくり」について学んでいただけたらな、と思っています。来ていただいた方には「プレスってそもそも何?」という内容などのワークショップも実施できます。

元々私自身が創業支援などをやってきたので、「何かやりたいな」と考えている方にも来ていただきたいですね。創業支援のためのアドバイスなどできるかと思います。明確なビジョンなどがなくても、来ていただいて動いてもらうことで何かが生まれるかもしれません。

また、ものづくり企業同士の連携ということもやってきたので、ものづくり企業がこのコワーキングスペースの中で生まれたら連携させることもしていきたいです。

― 今後のビジョンについてお聞かせください。

川端 私は「PORT構想」と呼んでいるのですが、PORTを全国各地に増やしていって、PORT同士を連動させていこうと思っています。ものづくり企業の空きスペースなどをPORT化して連動させようとしているんです。3月末には摂津市に「北摂PORT」もオープンします。北摂PORTはパン工場の2階に位置していて、食育をテーマにしていく予定です。現在、両国PORTもデジタル配信スタジオ化に向けてリノベーションを行っています。PORT同士を連携させることで、より面白いイノベーションなどが起きるのではないかと期待しています。

MDファクトリーや、MDプレス工業の「MD」という名前は、Making Dream(夢を作る)の頭文字をくっつけてできたものです。私が元々やりたかったMaking Dreamのための活動として、木津川PORTを作ったんだな、と後から振り返ってみて感じました。

― 木津川PORTが立地している場所の地域的な魅力について教えてください。

川端 木津川の河川敷も近く、自然豊かでのどかな環境です。近くには木津川グラウンドでは少年野球などをされていて若い家族層も多いエリアです。会社の前の道路はサイクリングやランニングロードになっていますのでスポーツをしていらっしゃる方も多いです。

MDプレス工業の駐車場の所に自販機がありちょっとした休憩スポットになっています。木津川PORTを作ったことを記念してベンチも設置したので、リラックスして使っていただけたらうれしいです。

奈良市内からも来やすい位置にあるので、市街の喧騒から離れて心やすらぐ場所で働きたいと考えている方にも、来てもらいやすい立地になっています。

― 木津川PORTは2021年2月にオープンしたばかりですが、現在お問い合わせがある方の中にはどのような方々がいらっしゃいますか。

川端 今はレンタルスペースとして使いたいという方が多いです。地域のサークルの集まりなどで利用したいという方が多いですね。また、うちの会社に障害のある子供がいる社員がいて、同様に障害のある方に役立つイベントを実施していきたい、と言っています。

今後としては、「木津川PORTで何かしたい」という方が増えてほしいと思っているので、どのような方であっても気軽に来ていただきたいです。まずはイベントスペースとして使っていただいたり、ちょっとした作業のために使っていただくことから始めていただければ良いのではないでしょうか。