特集・コラム

UNKNOWN KYOTO

京都市下京区

UNKNOWN KYOTOは、京都五條楽園にある元遊郭の建物をリノベーションした宿泊複合施設です。鴨川や高瀬川が近くを流れ、JR京都駅や阪急河原町駅へアクセスしやすい場所ながら周囲には散策したくなる細い路地が多い静かな環境は、どこか懐かしいゆったりとしたたたずまいが魅力です。今回のインタビューでは、UNKNOWN KYOTOの設立経緯や魅力について、設立者である株式会社OND代表取締役の近藤淳也様に伺いました。

株式会社OND代表取締役 近藤 淳也さん

- UNKNOWN KYOTOを設立された経緯について教えてください。

近藤 2001年に設立した株式会社はてなを15年経営してきましたが、事業が軌道に乗ってからは経営を後任者に任せ、新規事業の立ち上げとして「物件ファン」という不動産メディアを立ち上げました。本業と系統が違うこともあって、2017年にはてなと切り離して株式会社ONDを設立。物件ファンの事業を通して、町屋のリノベーションを多く手掛けている京都の不動産会社・八清さん、鎌倉や葉山でリノベーションを多く手掛けているエンジョイワークスさんとのつながりができまして、いろいろとお話しする中で「泊まれて仕事ができてご飯も食べられるような拠点を京都に作りませんか」という話が出たのがUNKNOWN KYOTOを設立するきっかけです。

鎌倉の由比ヶ浜通りにある古い建物をリノベーションしたエンジョイワークスさんのオフィスにお伺いした時、オフィスから別の建物にある会議室に歩いて移動したんですが、その間に近所の方が「こんにちは」と挨拶してこられるんです。地域とオフィスが自然と溶け込んでいて、仕事と生活がつながっている様子がとても魅力的に感じました。

というのも、はてなを経営していた頃はオフィスビルに入居していて、朝から晩までパソコンの前に座っている状態。外界や地域との接点がなく、毎日社員とパソコンに向かって作業をしているという働き方を15年ほど続けている中で、もう少し違うオフィスにしたいという思いが漠然とありました。エンジョイワークスさんのオフィスを見た影響もあって、次にオフィスを構える時は人の暮らしを感じられる環境にしたいと考えていましたから、泊まれて仕事ができてご飯が食べられる拠点づくりに参加するだけでなく、施設の運営と同時に町とつながれるUNKNOWN KYOTOに自分たちのオフィスを構えることにしました。

交流会などに参加すれば人のつながりはできるでしょうが、仕事が忙しいと参加もままなりません。逆にお客様としていろんな方が来てくださると、人のつながりが自然にできる状態が日常に組み込まれていってとても面白い。計画されていない出会いや意図しない広がりをUNKNOWN KYOTOの会員さんだけでなく私自身も楽しんでいます。ビジネスで提携している会社の方が会員さんになっていただいて公私ともに交流できるなど、有機的なつながりが得られていますね。

- UNKNOWN KYOTOの特徴はどういったところでしょうか。

近藤 ちょっとした仕事ならカフェなどいろんな場所でできますが、朝から晩まで一日中本当に仕事ができる環境となると意外に少ないんですね。UNKNOWN KYOTOを利用される方は、一日しっかり仕事をして別の日は朝から晩まで京都観光をするというまさにワーケーションな過ごし方をされる方が多いので、一日いても集中して仕事ができる環境にしたいというのがコンセプトです。その点でまず椅子にこだわりました。椅子は使用時間が長く、体にフィットしたものを利用しないと仕事に没頭するのは難しいですから、様々なタイプの椅子を揃えています。その日の気分や仕事の内容によっても使い分けていただくこともできます。また、コワーキングスペース内では音楽を流さないようにしているのも、集中して利用していただきたいという思いからです。

建物は100年以上前の遊郭で、柱やタイルなど歴史を感じさせる近代の木造建物独自の良さを生かしてリノベーションしました。落ち着いた雰囲気の中で仕事をしたり泊まったり食事を楽しんでいただけるのも特徴です。

― UNKNOWN KYOTOを利用されている方はどのような方がいらっしゃるでしょうか。

近藤 ITや人材、士業、旅行業など業種はさまざまですね。旅行関係の仕事をしているフランス人の方が利用されたこともありました。年代も学生さんから40代50代まで幅広いです。会員さんがプログラミングの勉強会を開いて、その流れで新しく仕事を始めたり、ご利用いただいたデザイナーさんにUNKNOWN KYOTOのチラシを作っていただいたり、思いがけない繋がりが生まれるケースもあって面白いです。

複業をしている人、独立を目指している人、すでに独立している人、スタートアップとして数人ほどの会社を経営している人など、利用者のフェーズは異なっています。コワーキング施設として直接的な支援メニューはありませんが、レストランが併設されていることで利用者同士が誘い合って食事に行かれるなど、交流が生まれやすい環境になっています。仕事の相談をし合えたり、また隣で誰かが仕事をしていることで孤独感が紛れたりと、自分一人ではないと思える事が利用される方にとって大きなメリットなのではないかと思います。

― ご自身の起業や経営の経験をもとに、入居される方に何かフィードバックしたいという思いはありますでしょうか。

近藤 頑張っている人は応援したいですし、ビジネスが大変なことであることはよく分かるので力になりたいと考えてはいますが、自分で考えて進むしかなく、支えることはできても導くことはできないと思っています。ですから前から引っ張っていくというよりも、横から後ろから支えますよ、伴走しますよという思いですね。

経験上、スタートアップとして進む中で「本当にこれでいいのか」という不安があるのが一番の障壁です。自分を信じて成功するまでやり続けることが大事ですから、本来できるはずの人が自信をなくしてつぶれそうになっているとしたら、周りが力を与えることでできるような環境があると良いなと思います。個別のアドバイスより「君はひとりじゃないよ」「一緒にしんどい道を歩んでいる人が他にもいるよ」と伝えて、知ってもらうことで励みになる場合もあるでしょう。

こういった支援の形は問題が急に解決したり資金がもらえたりするわけではありませんが、UNKNOWN KYOTOは毎日淡々と未知の未来に向かって進んでいる人たちが集まっている場所ですから、一緒に進もうとしてくれる人が近くにいたらいいなと考えている方の励みになる場として利用してもらえるとうれしいですね。

― UNKNOWN KYOTOの今後の展望について教えてください。

近藤 現在の入居者は個人でされている方が中心ですが、その方々の次のステージである5~10人規模の企業が増えてくると、また面白い交流が生まれるのではないかなと思います。ただ、利用者の目指すビジョンや方向が一つでなくてもいいと考えています。五條楽園というエリアは、個人で頑張っている人や地元で商店をやっている人もいて、いろんな方が混ざって生活しているという点が大きな魅力。特定の条件の人に利用してもらうために工夫するというよりも、地域とつながって仕事ができる場所としていろんな方に利用してもらえたらと思います。

― UNKNOWN KYOTOが立地する五條楽園の魅力について教えてください。

近藤 京都駅からそれほど離れておらず交通アクセスが良く、仕事の打ち合わせにも使っていただきやすいかと思います。さらに、そうした立地の良さにも関わらず五條楽園は観光地としてはあまり紹介されてこなかったエリアで、これまで大規模な開発がなかったおかげで入り組んだ路地や古い遊郭の建物が残っています。くねくねとしていて車がスピードを出せない路地はとても静かで、緑が多い中を散歩しているといい息抜きになってリフレッシュできる。考え事をするにも最適なので個人的なお気に入りポイントでもあります。20年京都に住んでいますがこんな風情のあるところがまだ残っていたのかという感じですね。

近くにはサウナ好きの方には有名な「サウナの梅湯」があり、仕事終わりにお風呂を楽しみながら、古き良き京都の雰囲気をじっくり楽しむこともできます。ワーケーションにはとても魅力的なエリアではないでしょうか。

― UNKNOWN KYOTOを利用される方はどのようなご感想をお持ちでしょうか。

近藤 ネット環境がしっかり整っているという評価をよくいただきます。ワーケーションに行ってみたらネットがつながりにくくて不満が残るという声は多いですが、その点は安心してご利用いただけます。

京都ならではの魅力を感じてもらえる宿泊プランを提供している中で、特に三泊以上宿泊していただくと宿泊料金が安くなるというキャンペーンプランは好評です。数日から一週間滞在していただくと、仕事ができて宿泊できて1階のレストランでご飯を食べられるというUNKNOWN KYOTOならではのメリットをしっかり感じていただけるようです。特に一度京都に住んでみたかったという方には喜んでいただいていますね。