特集・コラム

Soi

京都府南丹市

Soiは、京都府南丹市にある旧西本梅小学校の校舎3階を利用して運営されているコワーキングスペースです。京都市中心部や大阪市から車で1時間ほどの大自然の中でゆったりとしたワーケーションスタイルを楽しめるのどかな環境が注目されています。
今回のインタビューでは、Soiの設立経緯や魅力について、運営者である株式会社ブイ・クルーズの金田様にお話を伺いました。

株式会社ブイ・クルーズ 金田 学さん

― Soiを設立された経緯について教えてください。

金田 サテライトオフィスをつくるという総務省管轄の事業をベースに、地域ビジネス研究会が2016年に発足しました。南丹市や同志社大学公共サービス研究センターの教授、NECなどの企業がメンバーで、企業・行政・学生・地域が連携しながら新しいビジネスモデルの構築と将来的な地域活性化を図る目的で生まれたもので、システム開発会社である弊社も参加しSoiを設立しました。今年度から幅広く利用して頂きたく、サテライトオフィスの半分をコワーキングスペースとして開放しました。

― Soiの特徴はどういったところでしょうか。

金田 廃校になった小学校の校舎や校庭を使えるところが特徴の一つです。校庭にテントを張れるので、会員向けにテントの貸し出しなどキャンプを楽しんでもらうサービスを提供しています。大自然の中で働けるというのは都心部のコワーキングスペースにはない特徴ですね。車で10分ほど行ったところにある高原リゾート施設・るり渓温泉に泊まって仕事はSoiでやる―というワーケーションスタイルも可能ですし、コロナ禍でまだ実現はできていませんが、たとえば夏休みにお父さんが仕事をしている間にお子さんが昆虫採集をして遊ぶといった利用方法も今後できると想定しています。

南丹市は15年ほど前に4つの町が合併してできた市で、面積は広いものの人口は約3万人ほどといういわゆる過疎地。廃校になった小学校が10校ほどあり、数校はサテライトオフィスになっています。南丹市だけの問題ではなく、日本全国で小学校が今後数百校規模で廃校になっていきますから、Soiがモデルケースになれたらと考えています。

― Soiを利用されている方はどのような方がいらっしゃるでしょうか。

金田 地元の方が多く、イベント企画や飲食、自動車販売など利用してくださる方の業種はさまざまですね。ドロップインと月会員の利用割合は約半々で、経営相談を利用される方も多く、新しいビジネスを始めるためというよりは既存事業のためのテレワーク的な使い方をしている方がメインです。

入居されている企業さんがグラウンドを映写場とした映画祭を企画されたことがありまして、そのイベントでは地域の方が飲食の屋台を出してくださって、1年目に800人、2年目に1000人のお客様が日本全国から集まりました。コロナ禍の影響で「広くて距離を取れる場所で運動会をしよう」と大学生が来てくれたこともありましたし、今年8月には校庭で気球を上げるというイベントも開催しました。

当初地域の方々にとって都会から人がたくさん集まってくることに戸惑いがあったようですが、地道に活動していく中で少しずつ地域の方々の理解や信頼を得られていると思います。コロナ禍が落ち着いてくれば利用者同士や利用者と地域の方との交流の場を増やして、小学校全体を使えるという市内のコワーキングスペースにはないメリットを生かしながら新しいビジネスをしたいという人にぜひ利用していただきたいですね。

― Soiの今後の展望について教えてください。

金田 自然という南丹市ならではの資産を新しいビジネスに取り入れていきたい、地域課題の解決に一緒に取り組みたい、そんな方にどんどん利用していただけるようサポートしたいと思っています。

学生と行政と企業をつなげるプラットフォーム事業の一環で、「怨響」というプロジェクトを今進めているんですよ。すでにある地域の資産を生かせないかという話が出て、イヤホンをつけてその場所に行くとほぼ誤差なく音が流れてくるというNECの最新技術SSMRを使って、Soiの近くにある生身天満宮を舞台にホラーアトラクションをやってみようと昨年始動したプロジェクトです。

運営するのは地方創生や起業に関心のある大学生で私たちはサポート役。新型コロナウイルスの影響でイベント自体は2回中止になったのですが、状況が落ち着いたら必ず開催するというモチベーションをもってお披露目会を行ったところです。学生がすべて運営をやることで社会に出る前にひとつビジネス経験ができるというのがメリットなのですが、こうしたプロジェクトを通して若い人たちに集まってもらいたいなと。

若い人がいないというのは過疎地域の共通した課題で、南丹市でも多くの地域の方が感じておられます。地域創生というと大手企業が手掛けることが多いですが、長いスパンで地域の人と協力しながら進めていかないと成功しません。弊社代表も南丹市に来て6~7年経ち、徐々に信頼関係を築いていいお付き合いができてきていますので、ここで若い人たちに来てもらい長いスパンで着実に取り組んでいきたいのです。

若い人に南丹市に来てもらう、住んでもらうにはどういった仕事があるのか。地域の人が感じていない、気づいていない地元の魅力はたくさんありますし、この立地を生かして新しいビジネスを展開していくには地域の方とのつながりは絶対に必要ですから、地域の方との交流の中から新しいビジネスにつなげていきたいと思っています。

そのためにもまずは人が来てくれるのが一番ですから、Soiを人が集まる場所にしたい。人が人を呼ぶ、人が集まれば何か生み出せる、それしかないと思っています。「怨響」のように、南丹市にすでにある資産の魅力や価値を学生や企業が発見して新しいビジネスにつなげ、広げていくためのハブ的な役割を担っていきたいですね。

― Soiが立地する南丹市の魅力について教えてください。

金田 自然に囲まれて過ごせるという都心では味わえないロケーションが魅力です。利用してくださる方は「やはり田舎はいいね」と言ってくださいますね。京都市や大阪からは車で小1時間ほどですから、ワーケーションができる場所として利用しやすいと思います。

京都市内のファミリー層は休日に琵琶湖へ行ってバーベキューなどを楽しむパターンが多いらしいのですが、行くには1時間ほどかかるので移動距離としてはほとんど変わりません。るり渓をはじめとした美しい自然を楽しむことができ、「怨響」の舞台である生身天満宮は菅原道真とゆかりがあり、全国にある天満宮の中でも日本最古の天満宮ですからプロジェクトを通して歴史が勉強できる。またSoiからは少々離れますが、美山かやぶきの里では茅葺屋根の家屋が多く残され日本の原風景を楽しめます。他にもまだよく知られていない魅力を生かすことでこれから伸びていくエリアではないかと感じています。

― Soiを利用される方はどのようなご感想をお持ちでしょうか。

金田 コワーキングスペースに筋トレ&ヨガルームを併設していまして、筋トレプログラムを体験したり周辺をウォーキングしながら自然を満喫したりできるようにしています。仕事の合間に息抜きできる点を評価いただいていますね。

最近、Soiから車で5分ほど離れた場所にある茅葺屋根の古民家を所有しまして、来年度に向けて宿泊施設として整備しているところです。地域の方とのイベント開催やワーケーションなどで利用していただけるようになればうれしいですね。