特集・コラム

うじらぼ

宇治市

うじらぼは、宇治市と宇治商工会議所が一体となった産業支援拠点「宇治NEXT」が2020年11月から京都府宇治市の産業会館1階で運営している交流施設です。コワーキングスペース、イベントスペース、情報発信スペースという3つの機能を併せ持ち、起業したい人や事業拡大をめざす人を支援するさまざまな取り組みを進めています。
今回のインタビューでは、うじらぼの設立経緯や魅力について、宇治市役所産業振興課の北川様にお話を伺いました。

宇治市役所産業振興課 北川さん

― うじらぼを設立された経緯について教えてください。

北川 平成31年3月に策定した宇治市産業戦略の取り組みの一つとして、新たな産業の創出と産業交流の強化を進めるにあたり、宇治市で起業をお考えの方への支援に力を入れています。うじらぼができる前から起業家を応援するイベントを数多く開催していまして、ハードをつくるよりもソフトの方面の支援に取り組んできました。

たとえば、コロナ禍に突入する前までは、地域にお住いの方が地元起業家を応援する「地域クラウド交流会」というイベントを開催していました。3分間のプレゼンで思いを伝え、参加者の皆さんから投票されるというもので、平成29年から年1回開催し1回で200人前後、のべ800人にご参加いただいています。参加費1,000円の半分が賞金に充てられ、プレゼン参加者は獲得した票数に応じて賞金を受け取れるシステムです。

テレワークをされる方やフリーランスの方が非常に増えてきている点や、従来の規模での開催が難しい地域クラウド交流会の小規模バージョンとして起業家同士が交流できるスペースが必要と考えまして、市内の事業者の商品やサービスを展示していたスペースを改装してうじらぼを開設しました。

― うじらぼの特徴はどういったところでしょうか。

北川 イベントスペースを利用される場合でも、全スペースの貸切は不可とし、コワーキングスペースは必ず一部利用できるようにしています。というのも、コワーキングスペースで仕事をしながら横でやっているイベントの様子を見たり聞いたりして、「面白そうだな、入ってみようかな」と飛び入り参加していただきたいという狙いからです。実際に、昨年11月に着物の交流イベントを開催した時に、たまたまコワーキングスペースで着物の小物を作っている方が仕事をしておられて、飛び入り参加していただいて交流できたといったケースがありました。こういった『未知の出会い』を大切にできるよう、イベントはフルオープンな場所での開催を基本にしています。

利用者が自然な形で徐々につながってきているという点も、交流を大きなテーマにしているうじらぼの特徴かと思います。私たちがつないだ出会いは把握できるのですが、事業者さん同士でつながった偶然の出会いがここで生まれて、つながって一緒に活動しておられるのを後から把握するというケースが増えてきていますね。宇治市はいい意味で狭く事業者さん同士がつながりやすい地域なので、うじらぼを拠点につながっていただいている実感があります。

ひとつのコワーキングスペースを異なる組織が共同運営しているケースは全国的にも珍しく、強みとして考えています。市役所が主導するコワーキングスペースは担当者が変わるために軌道に乗りにくいケースが多いのですが、商工会議所は全く異なる部署への異動がなく継続した支援がしやすいんですね。1階のうじらぼで中小企業診断士の先生による専門家相談会を開催しているほか、すぐ上階の2階にある宇治商工会議所でも起業や経営に関する相談がいつでもできるという点が大きな特徴であり、利用者の皆さんにとって魅力的な部分ではないかと思います。

― うじらぼを利用されている方はどのような方がいらっしゃるでしょうか。

北川 2020年11月にオープンしてから年度末までの5ヶ月間でのべ450名ご利用いただきました。そのうちデザイン業やコンサル業、クリエイターなどパソコン1台で仕事ができる専門技術サービス業の方が全体の1/4を占めています。その他に情報通信業などのサービス業の方も多いですね、年代としては30~40代の方が7割です。職種で見ますと個人事業主が約50%で、テレワークできる場所として利用されている会社員の方が20%程度。社会起業の研究をしている宇治市の学生や京都市内の学生も利用してくれています。

交流会やマッチングをきっかけに、さまざまな実績が生まれてきているのは嬉しい限りです。交流会で出会った経験者からアドバイスを受けられて、LED関西のファイナリストになったという実績もあります。その他、展示コーナーを利用していた抹茶のお香を生産されている事業者さんと革製品を生産されている事業者さんが、共同でお香を入れる革ケースを開発販売されたケースなど、まさに共創による新しい価値を生み出す流れができてきていると感じます。

うじらぼをご利用いただく際は会員登録が必要で、オープンからの会員登録者数はのべ約400名、2021年度の登録者数は約200名です。更新時に必ず顔を合わせて近況を伺えるよう年度更新制にしていますので、比較的活発に動いている会員さんが多いという印象です。

― うじらぼの今後の展望について教えてください。

北川 起業を希望する人や起業家の交流支援がしたい、そのための場が必要ということでソフトからハードに移った過程を常に意識しています。現在は動画撮影の講座や補助金の相談会、ひたすら作業を集中して行う「もくもく会」など私たち主催でイベントを開催し、「こういうイベントをやっていいんだ」と知っていただく段階ですが、会員さんとタイアップして開催するイベントを少しずつ増やし、ゆくゆくは会員さん主催でのイベント開催ができるようになることをめざしています。

課題はいろいろありますが、最終的な目標は新しい産業の価値を生み出していくことですね。交流を通していろいろな人がマッチングして共創し、新しい何かをつくっていっていただけたら、宇治市の市内産業が強くなり、多様な働く場を創出し市民の豊かな暮らしを実現するという産業戦略がめざす姿の実現につながります。そのためにも「挑戦するならうじらぼ」という合言葉のもとに、何かしたい、挑戦したいと思ったらうじらぼに行こう、そう思っていただける場所にしていきたいです。

― うじらぼを利用される方はどのようなご感想をお持ちでしょうか。

北川 1周年のイベントをした際にいろいろな人と交流できる、気軽につながれるという声が多かったです。現在はコロナ禍で休止しているのですが、相談を受けたり会員同士をつないだりする機会を持つようにしていまして、今後も状況を見ながら続けたいです。

もっとイベントをしてほしいという意見もいただいています。現在は小規模のイベントをメインにしていますが、もう少し規模を大きくして利用者のニーズに沿った内容のイベントを企画し、期待に応えていけたらと考えています。情報発信スペースには利用者の名刺を貼れる掲示板を設けているのですが、これとは別にオンラインのコミュニティを作ってはどうかという声もいただきました。イベントを開催する時などに発信できるコミュニティが今はないので、LINEやSlackを使ったグループを作り、さらに交流しやすい機会を増やしていきたいですね。