ATARIYA Tango innovation Hub
与謝野町
ATARIYA Tango Innovation Hubは、豊かな自然あふれる丹後・与謝野町に2022年1月にオープンしたコワーキング・ワーケーション施設です。単に仕事ができるスペースではなく、地方の人や資源を生かした事業を創生する人たちが集い、地元の人々とともに交流できる場として期待を集めています。
今回のインタビューでは、ATARIYA Tango Innovation Hubを立ち上げた経緯やその魅力について、運営会社であるウエダ本社の代表取締役 岡村様にお話を伺いました。
ウエダ本社代表取締役 岡村様
― ATARIYA Tango Innovation Hubを立ち上げた経緯について教えてください。
岡村 弊社は事務用品・事務機器・オフィス家具等を取り扱う「事務機のウエダ」として、京都市内の中小企業様を中心に商品を提供してきました。20年ほど前からは、ハード面のみだけでなく人というソフト面にもスポットを当て、働く人が個性を活かし働くことができる取組を行ってきました。そして働き方の多様性の文脈からコロナ禍以前より、場所を問わず働けるような展開が求められるようになるだろう、そうした取組を進めていかなければならないと考えていました。
一方で、そうした働き方を浸透させるためには、IT企業以外でも場所を問わない働き方が可能であることを実証しないと理解してもらえません。そこで、注目したのが京都北部の丹後エリアでした。自社の社員が通えるエリアであること、そして決め手となったのが丹後エリアの魅力ある方々と繋がっていたことです。地方創生がうまくいっているところは、いい首長と現場に立つ熱い担当者がいらっしゃいます。与謝野町には山添町長をはじめ、熱意のある人たちが公民ともにそろっています。この環境なら面白いことができるだろうと感じました。
当初は、自社の事業につながる業務としてオフィス家具の素材となる木材や木工の製造、中古家具のリペアができる倉庫のようなスペースを探していたのですが、予定していた物件を取得できなかったので急きょ競売にかけられていた料亭「當里家(あたりや)」を落札しました。落札後に訪れてみると非常に立派な料亭で、地域の方々が結婚や卒業祝い、誕生日等の際に利用される思い入れが強い場所と知りまして、当初の木工製造以外の用途を見つけてぜひ活かしていきたいと考えました。
― ATARIYA Tango Innovation Hubの特徴はどういったところでしょうか。
岡村 内装等のハード面においては、元々の「當里家」の設えを活かしながら、家具類は丹後地域の企業の素材を使うことにこだわっています。座面にちりめん生地を使ったイスは、座って使う本来の用途に加えて重ねるとラックとして使える工夫も施しています。セラースペースは、織物業者さんをはじめ地域の企業の商品を展示できるスペースです。例えばA社さんを以前訪問された方がお越しになられて、セラースペースでA社さんの他の商材も見ていただくことで、より強く関心を持っていただけるような機会につなげていくという流れです。
調理場スペースは、料理のイベント等に活用できるよう料亭の設備を残しています。料亭ならではの落ち着いた雰囲気を味わっていただけるのも大きな特徴ですね。
またハード面だけでなく、そこで何をするか、何ができるかというソフト面が大切ですが、本拠点では、地域の企業と外部の企業が接続できるHubとしての役割を果たすように取り組んでいます。例えば、弊社はソニーと連携しており、ソニーが注力する全国6箇所のコワーキング施設のうちの一つとして本拠点が選ばれています。またソニーがIT企業やアプリメーカー60社程度と組織するコンソーシアムにも所属していますので、北部地域にありながらそうしたDXに関連する先と繋がることができます。
― ATARIYA Tango Innovation Hubを利用する方はどのような方がいらっしゃるでしょうか。
岡村 登録者の第1号は、サイボウズのアプリ開発パートナーをしているオーストラリア企業のSazaeさんです。京丹後市在住で元々オーストラリア企業のREP的なことをされている方が発信されたATARIYA Tango Innovation Hubの情報に興味を持っていただき、登録してくださいました。今年の3月10日にはSazaeさんと、同じく登録してくださっている京都北都信用金庫さんと弊社の3社でDXセミナーを実施。京都北部の企業さんは、DXやIT化について関心はあるもののどうしたらいいかと悩んでおられることも多いです。ですからATARIYA Tango Innovation Hubに集まっていただき、DXって特殊な話ではなく、むしろ地方でしっかり実業を行なっている所こそ整えていくべきものだということを、身近な事例を絡めて考えていくところから始めました。
― ATARIYA Tango Innovation Hubの今後の展望について教えてください。
岡村 そもそも、現在浸透しつつあるワーケーションというのは、どちらかといえばバケーション要素が強いですよね。国が主導で全国各地にワーケーションを進めていますが、この進め方では結局バケーション要素が強いところが勝ってしまいます。特色をもったワーケーションを広げていくためには、それぞれの地域にある資源に結び付く、「ワーク」に重きを置かなければならないと私は考えています。
丹後エリアは、歴史的背景や文化面などいろんな面で豊かで、繊維産業などものづくりの技術も残っている地域です。こうしたさまざまな技術や資源を持つ地域が人口減少で衰退することとなったら、日本全国の田舎はどこも同じように衰退していくでしょう。本拠点が丹後地域の「ワーク」と、外部の知恵やアイデア・新たな技術をつなぐ架け橋となる「Innovation Hub」となるとともに、地域で新たな仕事を作り出し、IT企業でない会社が地方で働けるモデルを生み出すことで、地方の活性化につなげていきたいと思っています。
これまで京都流議定書※に15年関わりイベントを行ってきた中で、多様な人をまじりあわせて価値を生んでいく動きが起こると非常に面白いことが生まれるということを体感的に知っていますから、とても魅力的な地域だなと確信しています。外部から人が集まる仕掛け、地域と外部が合わさる仕組みを私たちがつくり、協力してくださる丹後地域の方々の力を借りて丹後地域の企業や技術や資産を集約する場を作れば、今後多様な価値や新しい事業を生み出せる場所という付加価値がつけられるのではないでしょうか。
また、本拠点は行政や組合ではできない役割を果たしたいと思っているので、京都府内の丹後地域だけでなく、豊岡や但馬など兵庫県側も含め、山陰の経済圏全体を結んでいきたいですね。
※京都流議定書…数値化できない価値が多く残される日本の縮図ともいえる京都を研究し、日本独自の価値観を京都から世界へ発信するイベント。ソーシャルビジネス、経営、サービスなど異なるカテゴリーで活躍する方々を招き交流することで、偶発的な出会いから生まれる価値を生み出すもの。