お知らせ

2022年3月31日

京都で起業のすすめ『Grow up in Kyoto ~スタートアップの「拠点」の選び方~』で起業家・支援施設が語った拠点選びのリアル

2022年3月23日、京都経済センター3階のオープンイノベーションカフェ「KOIN」にて『Grow up in Kyoto ~スタートアップの「拠点」の選び方~』が開催されました。このイベントは、スタートアップ企業に向けて拠点としての京都の魅力を伝えるものです。

パネルディスカッションでは、実際に京都に拠点を置くスタートアップ企業の代表や京都のインキュベーション施設の担当者が登壇し、拠点としての京都の魅力や京都のインキュベーション施設の特徴を語りました。京都に拠点を置く意味や本音、インキュベーション施設の魅力やスタートアップ企業に対する支援についての話が多く飛び出した、貴重なイベントになりました。その様子を紹介します。

イベントは京都府商工労働観光部ものづくり振興課の中原真里氏の挨拶でスタート。中原氏はまず、京都は観光のイメージが強く、起業家にスタートアップ支援の情報が伝わりにくい現状を指摘。その原因として情報発信不足を挙げ、今回のイベントなどを通じ京都の魅力を「起業」という視点から紹介したいと抱負を述べました。

パネルディスカッション1「スタートアップが語る拠点選びのリアル」

パネルディスカッション第1部では、京都に拠点を置くスタートアップ企業の代表の方々に「スタートアップが語る拠点選びのリアル」というテーマでお話しいただきました。登壇者は、株式会社OND(オンド)代表取締役社長近藤淳也氏、ミツフジ株式会社代表取締役社長三寺歩氏、Athrazzi Technologies株式会社代表取締役藤井遥己氏の3名。モデレーターは関西アクセラレータープログラム「Re:Vive」を主催する鈴田泰久氏です。

近藤 淳也 氏

住み慣れた京都で起業。拠点としての京都のメリット・デメリット(近藤氏)

近藤氏はOND起業前に、ブログやオンラインブックマークサービスを提供する株式会社はてなを創業。京都リサーチパーク(以下KRP)のシェアオフィスの一角で、2メートル四方くらいの大きさのブースに拠点を置きました。その後一度東京、アメリカのシリコンバレーへと拠点を移し、帰国後再び京都に開発拠点を置いて東京・京都の2拠点体制を作ります。2017年に株式会社ONDを設立、京都市内の町家をリノベーションしたオフィス兼コワーキングスペースを拠点に活動しています。

京都の大学で学んだ近藤氏にとって、京都はなじみのエリアでした。IT系企業を立ち上げるとなるとどうしても東京中心に考えがちですが、まずは住み慣れた京都で頑張り、ある程度京都で存在感ある企業になったらまた改めて拠点について考えよう、と当時は思っていたと近藤氏は振り返ります。

当時のKRPには200以上の企業が入居していました。会社組織で仕事をした経験がなかった近藤氏は、ここなら起業の先輩とつながりを持ち、会社としての仕事を学べるだろうと考えたそうです。その考え通り、近藤氏はKRPが企画する入居企業者同士のパーティーなどを通じて知り合いを増やしていきました。創業後に倒産の危機に陥ったときは入居企業に営業し、そこから得た受託開発の仕事で乗り切ったこともあったそうです。

一度東京に拠点を移した近藤氏から見ると、拠点としての京都には2つ足りないものがあったそうです。1つは会社がさらに前に先に進むための理解者が見つけにくかったこと、もう1つは人材確保が難しかったことです。ベンチャー勤務経験者を即戦力として採用したくとも、京都にはそもそもベンチャー勤務経験者自体が少ないことを指摘。人材や業界の厚みを増す必要性を訴えました。

一方で、再び京都に開発拠点を置いた理由として、大学が多くインターン採用がしやすいというメリットを指摘。「はてな」でインターンを積極的に受け入れた結果人材も育つようになってきたことから、人材を育てていく重要性を強調しました。

近藤氏

三寺 歩 氏

町工場の息子の第二創業、最初の難関は府南部のオフィス探し!(三寺氏)

三寺氏は祖父が西陣織の町工場として祖業し、その後父が銀めっき導電性繊維等の研究開発・販売を行っていた家業を事業承継しました。第二創業期、三寺氏はまず拠点選び問題に直面します。スタートアップを想定したオフィスは京都市内にはあるものの、ミツフジの本社がある京都府南部にはほとんどありません。オフィス向けのビル自体がほとんどなく、事業展開や人材確保のためにもきちんとしたオフィスを持ちたかった三寺氏は非常に困ったそうです。

そんなときに知ったのが、京都・大阪・奈良にまたがる地域にある「けいはんなプラザ」。ラボ棟と呼ばれるエリアに空きがあることを知った三寺氏は、そこに入居することを決めました。

けいはんなプラザに入居を決めた理由は2つ。1つは賃料です。当時ミツフジは経営難で、その中で立て直しをするために、リーズナブルなけいはんなプラザの家賃は非常に魅力的でした。もう1つはけいはんなプラザが地元城陽から少し離れていたことです。先代とのつながりが強く残る地元から離れ、あえて城陽から少し距離を置くことで、自分の新しいコミュニティを作りたいというのが三寺氏の考えでした。

けいはんなプラザに入居した三寺氏を待っていたのは、多くの研究者との人脈・コミュニティでした。昔ながらの町工場の息子であってもこういったコミュニティに受け入れられ、またけいはんなプラザの担当者からのサポートも受けることができることで事業に集中できる環境で、「まるで外国に来たようなカルチャーショックを受けた」と三寺氏は振り返りました。そして、「京都南部で起業を考える人はぜひこういう状況に身を置いてほしい」と参加者に呼びかけました。

「支援する人が多く、プレイヤーが少ない」。三寺氏は京都のスタートアップの現状をこう語ります。京都には世界的な企業や大学があり、横のつながりを持ってさまざまな取り組みを行っている。しかし、その情報がスタートアップ支援機関以外の場所ではなかなか知られていない。この現状を三寺氏は非常にもったいないと感じているそうです。さらに支援内容についても、「多様なニーズに合わせたサポートが必要」であること、「場合によっては起業はもちろん、廃業も手軽にできるような体制があってもいいのではないか」と意見を述べました。

三寺氏

藤井 遥己 氏

東京生まれ東京育ち、京都に移住した起業家が考える拠点としての京都の魅力(藤井遥己 氏)

藤井遥己氏は東京生まれの東京育ち。京都には小学校の修学旅行で来て以来です。そんな藤井氏が京都に移住したきっかけは、Re:viveの鈴田氏が京都の町家でスタートアップの拠点 を作るというツイートでした。藤井氏は鈴田氏にすぐに連絡を取り、実際にシェアハウスを訪れたそうです。関西の若手起業家と話した藤井氏はここでなら孤独にならずに事業を立ち上げられるのではと感じ、2022年1月に京都に移住してきました。現在藤井氏は「すべてのスポーツの日本代表を世界一にする」というビジョンを掲げ、プロスポーツチームのスポンサー対応に関する課題を解決する事業を立ち上げています。

京都に移住したメリットとして藤井氏が挙げたのは、KOINで月に1回行われているベンチャーキャピタル(VC)とスタートアップ企業の壁打ち会です。京都の壁打ち会に参加するVCは親切で、親身で丁寧なアドバイスをくれるのだそうです。こういう環境がある状況は、日本各地を見ても多くはない、と藤井氏は語りました。同時にこれらの起業支援の情報が学生や若い世代の起業家に伝わりにくい、とも感じたそうで、改めて情報発信の大切さを強調し、話を締めくくりました。

藤井遥己 氏

パネルディスカッション2「京都のインキュベーション施設の魅力」

パネルディスカッション第2部は、京都のインキュベーション施設の担当者による各施設の魅力の紹介です。登壇者は、京都リサーチパーク株式会社イノベーションデザイン部井上雅登氏、株式会社けいはんな営業部藤井りえ氏、独立行政法人中小企業基盤整備機構近畿本部ビジネス・インキュベーション・コーディネーターの松井順平氏の3名です。各担当者の方にそれぞれの施設紹介、入居企業等の概要や支援内容等を伺い、各施設をPRしていただきました。

井上 雅登 氏

都心近くの立地に約500の企業が入居。スタートアップ交流の場を展開し、他施設とも連携強化(KRP 井上雅登氏)

KRPはJR丹波口駅近くにある全国初の民間運営によるサイエンスパーク。オフィスビル18棟の中に約500の組織が入居していて、入居企業の従業員数は合計約6,000人に上ります。入居企業の規模は1人社長のベンチャーから東証一部上場企業の研究開発拠点までバリエーション豊かで、多様な規模のオフィスを用意できるところが強みのひとつです。

(京都リサーチパーク https://www.krp.co.jp/

オフィスやラボを提供し、中には動物実験ができるBSL2/P2レベルのラボ設備も設置。さらに22年4月には、大阪府摂津市に日本初の時間貸しのシェアラボを展開されました。KRPの入居企業の約半分はものづくりもしくはヘルスケア関連企業で、ほかにもバイオ、機械装置、コンサルティングなど多彩な業種の企業がオフィスやラボを使用しています。また、オフィス以外にも交流拠点に使えるオープンスペースなども備え、イベントにも活用しています。

井上雅登氏が担当しているのは、スタートアップの支援、イベントスペースの運営、共催での起業支援プログラム開催など。KRPでは、年間約100件のイベントを開催するほか、大学の若手研究者と企業の方の出会いの場であるふれデミックカフェ、起業を目指す人のビジネスプランに対して徹底的なメンタリングを提供するmiyako起業部などの活動を行っています。「モノづくりPromotion Meet-up」という、プロのクリエイターとものづくり系スタートアップがプロダクトのPR動画を制作するといったサポートも展開しています。

KRPの支援の特徴は、入居企業だけに特化した支援ではないこと。入居・非入居問わず多くのスタートアップがひろくあまねく活用できる支援を行い、スタートアップの交流の場、創発の場を作るような支援を展開しているそうです。また、KRPだけでなく、中小企業基盤整備機構やけいはんなプラザ、そのほか海外のリサーチパークとも連携して、横のつながりでスタートアップ支援にあたっていると井上氏は紹介しました。

井上氏は「ここ数年で京都はスタートアップフレンドリーな街になってきた」と感じているそうです。KRP、けいはんなプラザ、中小企業基盤整備機構の間で互いに連携し、相談できる関係性も強くなってきました。スタートアップが拠点選びに時間を割くのはもったいないので、これらの施設のどこでもよいので一度相談してほしいと参加者に呼びかけ、井上氏は話を締めくくりました。

井上雅登氏

藤井 りえ 氏

郊外エリアに約90社が入居。電球交換から資金調達まで入居企業に寄り添ったサポートを行う(けんはんなプラザ 藤井りえ氏)

けいはんなプラザは、京都、大阪、奈良の2府1県にまたがる学研都市にある施設です。施設は大きくラボ棟、スーパーラボ棟、交流棟の3つがあり、交流棟にはホテルやホール、貸し会議場も備えています。都心部から離れた郊外エリアの施設ではあるものの、徒歩圏内にはホームセンターやスーパーなどの商業施設や温浴施設といった生活に必要な施設がそろっています。

(けいはんなプラザ https://www.keihanna-plaza.co.jp/

ラボ棟は13階建てで、2階以上のフロアがオフィスとして利用されています。給排水設備も整っていて、理化学系の実験の部屋としても使用可能。スーパーラボ棟は2階建てで、給排水設備が完備されているほか、クリーンルームなどの需要にも対応できるそうです。

藤井りえ氏が特にスタートアップ向けとして紹介したのが、けいはんなベンチャーセンター。スタートアップもしくは起業準備中の人を対象にした場所で、さまざまな企業と話をしながら事業計画の確認や練り直し等ができるそうです。ただし入居には審査および期限があり、年6回の審査で通った企業だけが最長5年間入居できるというシステムです。

けいはんなプラザの入居企業は約90社、そのうちスタートアップ系企業は32社(R4.3.23時点)を占めています。入居企業に対する支援は、まず交流棟での交流イベント等の開催。そのほかには、藤井氏が日々入居企業と接して話をする中で要望されたことや、自身が必要と感じた支援を行っているそうです。電球交換から資金繰りまであらゆる相談を引き受け、必要に応じて府や銀行に繋ぐなどしていると藤井氏は語りました。

入居企業の中にはなかなか外に出て自社の事業を説明しない、できないところも少なくないそうです。藤井氏はそういった企業に対し、外に出てアピールするよう促すことも役目のひとつであると紹介されました。実際、2年前に京都経済センターで行われたピッチ会では、促されて登壇した入居企業が、そこで銀行と出会い支援を受けることになったというできごともあったそうです。

今後も起業家がスムーズに適した拠点を置き、必要に応じて拠点を移動できるよう、支援機関同士の横のつながりや情報交換を強化していきたい。藤井氏はこのような抱負を語り、話を締めくくりました。

藤井りえ氏

松井 順平 氏

全国ネットワークの強み。自治体・大学と連携し、申請方法支援など実践的なサポートを行う(中小機構 松井氏)

独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)は2016年に設立されました。北海道から沖縄まで日本各地に事務所を構え、起業・創業から成長期、成熟期に至るまで中小企業をハード・ソフト両面から、全国ネットワークを活かし支援を行っています。

ハード面では、全国に29のインキュベーション施設を運営。京都には、京都大学桂キャンパスに隣接した京大桂ベンチャープラザ、出町柳にあるバイオ専門施設クリエイション・コア京都御車、同志社大学田辺キャンパスに隣接したD-eggの3つの施設があります。

(京大桂ベンチャープラザ: https://www.smrj.go.jp/incubation/kkvp/
(クリエイション・コア京都御車: https://www.smrj.go.jp/incubation/cckm/
(D-egg: https://www.smrj.go.jp/incubation/d-egg/

松井氏は京大桂ベンチャープラザを担当しているため、この日は主に京大桂ベンチャープラザ中心の説明となりました。

京大桂ベンチャープラザはウェットラボ仕様で24時間機械警備されているため、研究開発活動が時間を問わずできるというメリットがあるそうです。給排水設備はもちろん電気は三相・単相の両方に対応していて、契約して入居すれば即使える状態が整っています。オフィスやラボの広さは10平米からで、場合によっては80~90平米の部屋を複数借り、壁を取り払って大きな部屋として使うことも可能です。

ソフト面では、国や自治体の補助金等の情報共有に力を入れているそうです。インキュベーションマネージャー(IM)が常駐しており、事業計画のブラッシュアップや技術的な問題解決などの課題の解決に向けてのサポート体制も充実。案件によっては自治体に協力を求めたりもします。国の機関であることから、京都府・京都市、大学などと連携し、オール京都の体制でサポートネットワークを形成しているのも特徴のひとつでしょう。特に大学との連携は、大学の先生を紹介するなどして技術面でも充実したサポートも受けられます。

松井氏によると、中小機構の入居企業の中には、技術力があるもののその技術をどの業界に活かし、どう製品を作ったらよいかがわからない企業もあるそうです。そういった企業に対しては、自社が技術を客観的に見て強み・弱みを把握することが必要です。また、製品化に向けての資金調達、販路開拓にはPRも必要になります。そのため、まずは補助金を申請し、資金調達から始めることをお勧めしています。そうなると、プレゼンやホームページなどで自分たちの技術・製品の見せ方を考える必要がでてきます。

中小機構は、入居者の事業化をお手伝いしております。中小機構の場合、入居期限を最大8年間と設定しております。8年後、中小機構の施設を卒業し、移転してもやっていけるように、IMが補助金の申請方法や書き方、特許の出し方など実務的な手続き等を、入居中は徹底的にサポートさせていただいているのだと松井氏は説明しました。

京都は他県と比べても自治体や支援機関が一丸となってベンチャーを育てて行こうという体制ができている、と松井氏は強調します。今回のイベントを主催した京都知恵産業創造の森など、ワンストップでいろんな機関を紹介してくれる機関もあります。拠点も、中小機構だけでなくKRP、けいはんなプラザなどの各施設が連携して、空いているオフィスを紹介し合う事例もあるそうです。施設独自の賃料補助制度もあり、起業を検討している人はぜひ京都の施設を選んで頑張ってほしい、と最後にエールを送りました。

拠点情報を発信しているサイトも活用し、気軽に支援機関に相談を

イベントのエンディングに公益財団法人京都産業21イノベーション推進部の櫻井雅人氏が登壇しました。櫻井氏はまず、京都のコワーキング・インキュベーション・ワーケーションの拠点に関する情報を発信しているサイト「京都スタートアップホームベース」を紹介。サイトには、京都府下のコワーキング、インキュベーション、ワーケーションの拠点として使える施設が48ヶ所(R4.3.23時点)紹介されています。施設種別、利用方法などの条件で検索することもできるので、もし京都で拠点を探している場合は活用していただければと参加者に呼びかけました。

そして、三寺氏が言った「プレイヤーが足りない」という言葉に言及。支援機関はいつでもプレイヤー、起業家を歓迎するので相談してほしいと挨拶を締めくくりました。イベント終了後、会場では参加者が挨拶や名刺交換を行うなど活発に交流を行う様子が見られました。