特集・コラム

一般社団法人
日本ワーケーション協会

普段生活している場所に固定されず、場所を変えて豊かに暮らし働くより良いワーク&ライフスタイルの実現の手段であるワーケーション。一般社団法人日本ワーケーション協会は、京都市内の協会本部をはじめとした全国の支部・オフィスラボ5ヶ所を軸に、新しいワーク&ライフスタイルとして広がりを見せているワーケーションの促進事業や関連イベント事業等の取り組みを続けている団体です。

今回のインタビューでは、協会の設立経緯や国内におけるワーケーションとスタートアップとの関係性、今後の課題と展望について代表理事の入江様にお話を伺いました。

 


一般社団法人日本ワーケーション協会
代表理事 入江真太郎様

― 協会の活動概要について教えてください。

ワーケーションという働き方やライフスタイルは、個人の人生をより豊かにするだけでなく、地域共創や年代・地域の垣根を超えたネットワークづくりに繋げやすいのが大きな特徴です。そんなワーケーションの魅力を伝えるために、情報発信やイベント開催の他を中心にさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

情報発信はHPやX(旧Twitter)・FacebookといったSNS、Podcastが中心です。ワーケーションはまだまだ小さなマーケットですが、一定数いるコアな層に向けてカジュアルな内容から深掘りした内容までさまざまな情報を発信しています。noteでは、会員から提供されたワーケーション体験記やイベント告知などのホットな情報を毎週伝える「今週のワーケーション記事」が好評です。さまざまなゲストを迎えてワーケーションをテーマにトークを展開するPodcast「ワーケーションのんびりラジオ」は、すでに放送回数150回を超えました。

その他、自治体のサポートとして地域の魅力を再発見するワークショップ・モニターツアーなどの運営やワーケーション関連のプロモーション動画・HP制作に加え、ワーケーションを底上げする独自事業として認定制度に取り組み、全国各地でワーケーションを推進しやすい基盤づくりにも努めています。

私たちは民間団体ですが、これらの事業活動を通して民間と行政の間といった立ち位置で動くことも多いですね。

― どのような経緯で協会を立ち上げることになったのでしょうか。

私は大手旅行会社からベンチャー系、個人としての起業を経てずっと国内外の観光業界に携わってきました。そのなかで、さまざまな地域の状況に触れる機会があったのですが、2018年あたりから少しずつ働き方の世界観が変わってきている感覚がありました。日本ではそういった変化の兆しは当時ほとんどなかったものの、2020年からコロナ禍が深刻化してきたことで、それまでの経験から今後3年ほど正常ではない価値観の変化の時期がくるだろうと予測しました。働き方の選択肢を増やして新しいライフスタイルを促進していく、そんな明るい未来に繋がるような活動を始めるならこのタイミングしかないと思いました。その呼びかけに、一緒にやろうと集まったのが今の理事たちです。

ワーケーションに似たライフスタイルはもともと存在していたのですが。実践する人が少なかったんですね。それがコロナ禍をきっかけに多くの人が注目するようになり、コロナ禍が収束していく中で徐々に働き方の多様化という観点に変わってきました。働き方を考える、つまり自分の人生や生き方を考えるフェーズへと流れが着実に変わってきているので、ますます私たちの活動は意義深いものになると感じています。

― 京都府で事業をスタートされた理由は何でしょうか。

新しい文化を広めていく象徴となり、核となってワーケーションを促進していこうという方向性が見えてきた時に、京都がいいのではないかとピンときました。私自身は他府県の出身ですが、大学も同志社大学出身ですし、観光事業に携わるときも、京都での取り組みは多くあり、非常に愛着がありました。これから新しい価値観を広げていく事業を始める上で「新事業を興すなら東京で住所登記すること、東京でやる」という従来通りの方法に面白さやメリットを全く感じなかったんです。京都は全国からも海外からも多くの人が訪れ、多くの人が働き、都市と地方の中間という絶妙な立ち位置の街です。日本の歴史をつくってきた地であると同時に新しく生まれる価値観も柔軟に取り入れる、ワーケーションの象徴としてふさわしい場所だという理事全員の一致した考えから京都で事業を立ち上げることにしました。

コロナ禍で低迷していた観光需要喚起のために政府がワーケーションを推進した2020年当時、正直言うと東京で私たちと同じようなワーケーション関連の団体がいくつか立ち上がりました。どの団体もまず考えるのは都内の企業との連携で、その後に地方に目を向けるというプロセスを踏んでいましたが、この時はコロナ禍もあり移動制限もありました。関係者がみな東京都内で活動していますから地方との繋がりは多くなく、話が進みません。対して当協会は京都や北海道や長崎に理事がいて、全国各地方にもいる仲間と一緒にいろいろな人を巻き込みながらネットワークを広げることに注力したため、最後に東京の企業に向けて「一緒にやりませんか」と提案できる立場に立つことができました。他の団体がいざどこかの地方とつながろうとした時にはすでに私たちと連携関係にあるところばかりという状況でしたね。ワーケーション関連の活動を優位に進めて戦略的に全国展開できたのは、京都から全国へという流れにいち早く目を向けてネットワークを生かせたからだと感じます。

京都と関わりを持ちたいという東京の企業からのお声がけが多いことも、京都発の団体ならではの強みです。京都から東京という従来とは逆の流れは、東京に行って「京都でこういう事業をしています」と事業プランを提案する時に、地方のネットワークも丸ごと生かせるという大きなメリットがあります。東京の企業が欲しいのは地方のネットワーク。東京だけでなく世界各都市の企業もまた日本でのネットワークを求めていますが、京都や関西のネットワークを持っているという独自のアピールができるのは大きいですね。

― 会員の方はどのような方が多いのでしょうか。

地域属性は特定の地域に偏らず全国各地で比較的均等に広がっています。ただし、最も割合が多いのはお陰様で東京都内の企業となりました。年代は40代がもっとも多く、次いで30代が多いです。50~60代の会員もアクティブですね。年代によって微妙にやりたいことが違うのですが、さまざまな年代の人たちが集まるからこそ起きる現象でかえって幅広い活動につながっていると思います。個人・法人・自治体の割合も1/3ずつでほぼ均等ですね。ワーケーションの初心者から上級者まで集まって、みんなでワーケーションを盛り上げていこうという活気にあふれています。会員限定の非公開SNSでは日常的に活発な議論が交わされていますよ。

ワーケーションの普及や定着をめざして活動している公認ワーケーションコンシェルジュは、現在全国で85名ほどいます。地域のコーディネータ的な人やワーケーションを実践している人、コワーキングスペースなどのプラットフォームを運営している人、スタートアップ支援をしている人など多種多様です。地方でのワークショップやコワーキングスペースを使ったイベントなどの企画運営は、認定ワーケーションコンシェルジュである彼らが先頭に立って行い、当協会はそのサポートとして情報発信をするという形です。彼らやそのネットワークの人たちが一からつくりあげていくのでそれぞれのカラーがあって面白いですね。

― スタートアップとワーケーションの関係性についてご意見をお聞かせください。

スタートアップの方は、ビジネスモデルの創出や市場開拓の段階で「Aプランを試したがだめだったから次はBプランで行こう」といったことが多いだけに、人脈づくりやアイデアづくりにワーケーションを活用して、一人で考えずビジネスの先輩たちと一緒にやってみるという方法は効果的ではないかと思います。

私が全国各地で会員や連携団体などとジョインしていて感じるのは、大手企業と簡単につながれるというワーケーションのメリットの大きさです。スタートアップやフリーランサーの多くが大手企業と組んでビジネスをしてみたいと一度は考えますが、普通なら協業や連携を実現するためには高いハードルがあります。一方で、ワーケーションを介するとそのハードルが低くなったりなくなったりすることが多いんです。イベントで集まったら、フリーランサーの隣に大手企業の役職者がいるといった構図は日常茶飯事。本来は大手企業と話すには実績があることが前提ですが、ワーケーションでのつながりではそういった縛りはありません。「イベントで一度会ったことがある」、「頑張っているから一緒にやろうか」なんて話がスムーズに進むワーケーションの良さを一人でも多くの人が最大限に生かせるよう、さまざまなビジネスの種が生まれ育つための機会を積極的に提供したいですね。

― 今後の展望についてお聞かせください。

協会として、また個人的にも、アジアでワーケーション文化をつくり大きくしていきたいです。今でこそワーケーションという言葉はよく耳にするようになりましたが、実はアジア圏はワーケーション文化がほとんど浸透していません。世界規模で見たデジタルノマド(ここではワーケーションをする人として参考値とする)の割合は、ヨーロッパと欧米で全体の75%を占めていてアジアとオセアニアではわずか8%なんですね。今後、たとえばワーケーション目的で日本に来る韓国のノマドワーカーや企業が増えれば、日本国内のワーケーション界隈もさらに活性化していくのではないでしょうか。

その際に世界中の人たちにワーケーションの地として京都を選んでもらえるような仕組みづくりを進めたいです。また京都府全体でも考えていきたい。特に京都の北部エリアは、伊根の舟屋や天橋立といった観光資源も豊かでありながら、ものづくり産業も盛んなので地域の特性を生かしたイノベーションが今後起きる可能性が高いのではないかと注目しています。